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『源平紅雪綺譚』 作:大竹直子 ★★★★★ [コミック:全般]

あの歴史ロマンの名作コミックが復刊!

源平紅雪綺譚

源平紅雪綺譚

  • 作者: 大竹 直子
  • 出版社/メーカー: 小池書院
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 単行本
源平紅雪綺譚     大竹直子

源氏と平家。
命がけの闘いのさなか、その運命を受け容れながらも惹かれ合う男たち。

・・・・・
「男たち」というより、人と人、かな?


 (以降ストーリーそのものに言及する箇所があります。)
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 時は平安朝末期、栄華を極める平家一門を、討ち滅ぼさんと対峙する源氏軍。
 総大将源頼朝の異母弟である九郎義経は、武門一族の男子として本懐を遂げることを決意していた。
 舞台は、そんな義経が兄の命を受け、暴挙により朝敵となった従兄木曾義仲を、初陣「宇治川の戦い」において激戦の末討ち果たした直後のこと。

 『己は兄にとってどのような存在なのか?兄の謀略に利用されているのでは・・・?』とのかすかな疑念を胸に、洛中駒を進める義経。
 道中、期せずして平家の若い公達を捕らえた。
 その若者の風貌、実に典雅で秀麗。
 そして、仇敵であった清盛の甥、平敦盛であると知る。

 一方敦盛は、義経の清廉さ潔さに感じ入り、何故か寂しげなその瞳に、強く心惹かれるのだった。
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 大竹直子 と作品について。
 代表作は、表題作のほか、平経正を主人公とした『青蓮華』、少年期の義経が鞍馬から奥州へと旅立つまでを著した『遮那王宵月記』(いずれも、この小池書院発行の『源平紅雪綺譚』に収録)、『写楽』(原作:皆川博子/作画:大竹直子)。

 大竹直子は、角川書店の「ミステリーDX」の増刊で、今は廃刊となっている「歴史ロマンDX」(1994~1995年)でデビューし活躍していた作家です。
 出版社関連の事情もあるのか寡作で、近年は特にその作品と出会うことがなく、寂しく思っていました。
 何しろ、( 皇なつき と双璧を為すかとも思える)これほどの画力とストーリーを生み出せる稀有な作家さんですから、現状のままでは日本のコミック界の大いなる損失とも言えるのではないかと。

 彼女の作品は(やはりと言いますか、ご本人も自ら仰るように)いわゆる「やおい」(もしくはBL)ジャンルになるらしいです。
 それについてどうこう言うつもりはありませんが、それだけで語られるのは「惜しい」と感じさせられます。
 いっそ、史実と虚構織り交ぜた「歴史ロマン」というジャンルを確立して頂き、「ぜひとも『遮那王宵月記』を、義経が非業の死を遂げるまで完結させて頂きたい!」と、そのように思っています;^^

 表題作の『源平紅雪綺譚』なども、物語の一部分一場面を切り取って「やおい」的と言えばそうも取れますが、物語中で敦盛が義経に投げかけた次の言葉こそが、この作品の本質を照らし出しているのではないでしょうか。

 ─ 義経の温情への礼として愛笛を渡そうとする敦盛は、彼を待つ間に木曾の残党に襲われる。
 敵方ゆえに、告げられた場所に行かぬつもりの義経だったが、胸騒ぎを覚えて駆けつけ、敦盛を救う。
 そこで「なぜ待っていた?見殺しにするとは思わぬのか!?」と問いただす義経に、敦盛は「思わぬ」と応じ、さらに「なぜ!?」と問われて彼は、(義経が)「人を乞(こ)うて戀(こ)うて止まぬ、寂しい瞳(め)をしておられるから」と答える・・・・─

 まこと「恋(こひ)」とは、「乞(こ)ふ」から生まれた言葉であり、「人戀う」の「人」とは契りを交わす異性のみならず、父母であり兄弟であり、たとえ敵であっても憧れ心惹かれる相手のことでもあるのです。

 物語のラスト、源平一の谷の合戦において、義経は首級となった敦盛と再会します。
 敦盛がいまはの際に、「九郎殿の手勢に討たるるは本望」という言葉を残したと聞き、万感迫り落涙する義経。

 戦乱の世にあって、己の運命を全うすべく、その限られた生を華と散らして潔しとした若者たちの心の奥底に思いを馳せれば、「もののあはれ」を感じずにはいられません。
 やはり、「平家物語」をこよなく愛し、精通している作者ならではの筆致であると思います。


[この記事は2007/12/22 に楽天ブログにて公開した記事(削除済み)を一部変更・編集したものです。]
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